社内資料をAIへ渡してよいか迷ったときは、その場で試す前に、会社が許可した利用環境と情報の扱いを照らし合わせましょう。図面の社名を消しても、寸法や納期から案件が分かることがあるためです。この記事では、図面原本や取引先を特定できる資料をそのまま入力しない方針を出発点に、情報を4区分に分ける方法と配布用ルールの記入例を紹介します。報告書の構成や一般的な検討項目をAIに相談したい管理者の方は、入力する文面を誰が審査するかまで決めてください。
| 状況 | 判断 | 最初の対応 | 次に判断すること |
|---|---|---|---|
| 図面PDFやCADデータを要約したい | 原本は入力しない | 図番・社名・寸法・注記を含むファイルのアップロードを止める | 一般化した質問だけで目的を達成できるか |
| 取引先メールの要点を知りたい | 個人判断では入力しない | 社内で、社名・担当者・連絡先・案件名・単価の有無を読む | 取引条件と承認先 |
| 不良の原因候補を洗い出したい | 証跡と要約を分ける | 原票、写真、ロット情報をAIへ渡さない | 固有情報を除いた現象要約を作れるか |
| 入力してよいか迷う | 入力しない | 入力予定文を社内の指定場所へ保存し、相談先へ回す | 同じ相談に備えルール表へ何を追記するか |
AIに社内情報を入れる前に決める4つのこと
「図面は禁止」「匿名化すれば可」という短いルールだけでは、現場の判断が分かれます。一般的な加工の質問まで止まる一方で、社名を伏せただけの資料が入力されることも考えられるからです。そこで、利用開始前に次の4点を決めます。上の表で入力を止めた場合も、相談先があれば、元資料を送らずにできる方法を検討できます。
- 業務利用を認めるAI、会社アカウント、アクセス経路
- 入力情報を分ける4区分と、区分ごとの入力可否
- 削除や置換後の文章・添付・情報の組み合わせを審査する担当者
- 迷ったときの相談先と、承認なしでは入力しない扱い
まず、会社が管理するアカウントだけを認めるのか、どの機能や連携先まで使えるのかを明記しましょう。同じサービスでも、契約や設定によって入力の保存、学習への利用、外部への送信条件が異なります。導入担当者は、利用規約と設定を読み、調べた日、担当者、許可した範囲を台帳へ残してください。会社のアカウントであっても、許可外のファイル連携まで使えるとは限りません。
図面・取引先・不良情報を4区分に分ける
次の4区分は、自社の入力ルールを作るための例です。法令による一律の分類ではなく、相手先や案件を特定できるか、外へ出た場合にどんな影響があるかを考えるために使います。公開情報にも個人情報や利用条件が含まれ得るため、区分1なら何でも入力できるわけではありません。また、区分2・3は、許可環境、利用目的、契約上の条件、社内の審査を満たしたときに限る候補です。
| 区分 | 情報の例 | 入力の基本 | 管理者が決める扱い |
|---|---|---|---|
| 1 公開・一般情報 | 公開済みの一般用語、一般的な文章表現 | 許可環境で、公開範囲と利用条件に合う内容だけ扱う | 担当者が出力の根拠と用途への適合を調べる |
| 2 加工すれば扱える候補 | 固有名詞を除いた作業説明、一般化した不良現象 | 社内で目的に絞って加工し、入力範囲の審査後に扱う | 削除項目、加工者、加工後の審査結果を記録する |
| 3 事前審査へ回す | 工程条件、設備番号を含む傾向、案件に近い仕様 | 契約等の条件を満たし、承認された範囲だけ扱う | 承認者、目的、入力範囲、出力の利用先を残す |
| 4 原則入力しない | 図面原本、CADデータ、顧客名、連絡先、単価、ロット、不良写真、未公開の対策記録 | アップロード・貼り付けをしない | AIを使わない方法または別の承認経路を検討する |
上の表を使う際は、資料名だけでなく、中に何が含まれているかを見ます。たとえば工程の説明でも、一般的な作業の説明と、製品性能に関わる独自の加工条件では扱いが変わります。ただし、要素を調べるために元資料をAIへ送ってはいけません。社内で加工した文面について、区分、加工者、承認した範囲を記録し、その記録自体の閲覧者も限定しましょう。
図面は原本を渡さず、質問に使う情報を見極める
図面には、図番や顧客名のほか、寸法、公差、材料、工程条件、注記が含まれます。そのため、このルール例では、図面PDF、スクリーンショット、CADデータ、未公開仕様の原本を入力対象から外しています。画像をOCRで文字に変えても、機密性が下がるわけではありません。作成者が固有情報を外した後、指定した審査担当者が文章全体と添付の残りを読み、入力範囲を判定してください。
たとえば、加工の考え方を集めたいだけなら、「この図面の公差を満たす方法」から、「薄板加工で反りを検討するとき、どの観点を調べるか」へ質問を変えられる場合があります。ただし、一般化すると目的を果たせないときに、元の寸法を少しずつ追加してよいわけではありません。その時点で入力を止め、製造責任者へ相談しましょう。外注先へ図面を共有する許可と、AIサービスへ渡す許可も別に扱います。
OCR後の文章にも、図番、社名、注記が残ります。さらに、文字を誤って読み取ることもあるため、AIへの入力可否と、読取結果の正しさは別々に扱いましょう。OCRで図面番号を読み取る注意点|原図照合から登録まででは、原図と読取結果を照合して登録する手順を説明しています。変換後の文字がそのまま公開可能になる、という意味ではありません。
取引先情報は社名を消した後の組み合わせも見る
取引先情報も、社名をA社に変えるだけでは十分とはいえません。所在地、品目、納期、発注量、単価などを組み合わせると、相手先や案件が分かる場合があるためです。ここでいう伏字や一般化は、法令上の「匿名加工情報」になったと判断する手続きではありません。受領資料の取扱条件が不明なら、営業責任者や契約を扱う担当者へ回し、現場担当者だけで入力を決めないようにします。
情報を外す前に、AIに何を作ってほしいのかを一文にしてみてください。たとえば「催促メールの文章構成を作る」だけなら、実際の相手先、製品名、価格、納期日を渡さずに済むことがあります。目的を先に決めれば、資料を丸ごと加工するよりも、入力する情報を絞りやすくなります。下の項目は加工時の着眼点であり、置き換えれば入力可とするチェック欄ではありません。
- 社名・担当者名・連絡先を削除または置換する
- 製品名・案件名を「部品X」「案件Y」に置き換える
- 金額は具体額を外し、目的上欠かせない場合だけ許可範囲内の表現にする
- 納期日・所在地・数量など、目的に不要な条件を削除する
加工後も「誰の、どの案件か」が推測できるなら、そこで入力を止めましょう。社内だけで文章を作るか、審査担当者へ目的と残った情報を伝え、別の方法を選びます。特に、価格・仕様・数量を並べた資料は、社名を消しても取引内容そのものを示します。このルール例では区分3以上に回し、承認者が契約条件を超えて許可しない扱いにします。
不良情報は証跡を残し、入力用の要約を社内で作る
不良対策では、AIの出力を原因の確定に使わず、調べる観点や報告書の構成を考える補助として使います。不良報告書、検査成績書、現品写真、顧客クレーム、ロット番号、設備番号は、個別案件をたどる証跡だからです。顧客名を伏せた写真でも背景の伝票が写ることがあるため、原票一式や未公表の対策記録はそのまま渡しません。
入力用の要約は、元記録を読める担当者が社内で作ります。発生工程、現象、発生の傾向、実際に調べた項目を一般化し、品番・ロット・設備番号・固有の数値・写真を外す流れです。ただし、まだ調べていない項目を実施済みと書いてはいけません。原本は保存対象として残し、AI用の文面と保管先を分けたうえで、原本へアクセスできる人も制限してください。フォルダーを分けるだけでは閲覧制限になりません。
架空の例で考えてみましょう。「顧客A向け部品のロット123で、設備7の寸法不良が発生」という原票を、そのまま貼り付けることは避けます。工具状態と測定方法を実際に調べているなら、「加工後の検査で規格外が続いた。工具状態と測定方法は調べた。追加で調べる観点を挙げて」と一般化する方法があります。実施していなければ、その部分は未実施と書きます。出力された候補は仮説として扱い、現場観察や測定・工程記録で裏付けてから採否を決めます。
入力前60秒フローを、迷ったら止まる4問にする
ルールを読んでいても、忙しいと元資料をそのまま貼り付けそうになることがあります。そこで、端末の近くや社内ポータルに次の4問を置き、入力直前に立ち止まる入口にしましょう。「60秒フロー」は短時間で相談へ回すための呼び名であり、60秒以内に審査を終える目標ではありません。判断に迷う内容は、時間がかかっても入力を保留します。
- 会社が許可したAI・アカウント・機能・連携を使っているか。
- 利用目的と入力範囲が、社内ルール・契約・権利に関する条件に合っているか。
- 社内で加工した文面は目的に絞られ、組み合わせや添付にも許可外の情報が残っていないか。
- 指定担当者の審査・承認を終え、出力を使う担当者と根拠の照合手順が決まっているか。
1から4まで順に読み、すべて「はい」と判断できた文面だけを入力対象にします。2の契約条件が不明、3の加工後も案件が分かる、4の承認が未了という場合は、それぞれの段階で止めてください。相談時は、利用目的、元資料の種類、消せない要素、希望する出力を社内の指定経路で伝えます。責任者は可否だけでなく、許可した文面と用途、代替案、判断日を残しておくと、次に同じ相談が来たときにも根拠を説明できます。
A4・1枚で配るAI入力ルールの記入例
配布するルールは、入力直前に読み返せる分量にすると使いやすくなります。下の表はA4・1枚にまとめるための記入例です。各行の相談先を自社の担当者へ置き換え、許可する環境、加工後の審査方法、記録の保存先を付け足してください。「条件付き」と書くだけで済ませず、その条件を満たしたことを誰が判定するかまで記載します。
| 情報の例 | 原本の入力可否 | 社内で伏字・要約した後 | 入力前に消す項目 | 審査・承認先 | 出力の使い方 |
|---|---|---|---|---|---|
| 図面・仕様書 | 不可 | 一般質問のみ条件付き | 図番、社名、寸法、公差、材料、注記 | 製造責任者 | 調べる観点の下書き |
| 取引先情報 | 不可 | 目的に絞り、一般化した文面の審査後のみ | 社名、担当者、連絡先、単価、納期、数量 | 営業責任者または契約担当者 | 文章構成の下書き |
| 不良情報 | 不可 | 現象の要約のみ条件付き | 顧客名、ロット、設備番号、写真、原票番号 | 品質責任者 | 調べる項目の洗い出し |
| 設備・作業写真 | 原則不可 | 固有情報がない説明文を検討 | 銘板、画面、伝票、人、背景の資料 | 設備責任者 | 一般的な手順の構成案 |
| 社内手順書 | 事前審査へ回す | 公開可能な一般表現のみ条件付き | 固有工程、取引先、管理番号、社内連絡先 | 文書管理担当 | 読みやすさの見直し案 |
表の上部には、対象となる人と許可用途も書きます。正社員だけでなく、パート、派遣、外注作業者が資料へアクセスするなら、その範囲に応じたルールがあると迷いにくくなります。用途は「一般用語の説明」「文章の骨子」「一般化した現象の検討項目」などと具体化しましょう。また、誤入力やヒヤリハットの報告先を明記し、気付いた人が早く相談できるようにします。
迷った事例と利用環境の変更をルールへ反映する
配布後の最初の1か月は、実際に迷った場面を集めてみてください。相談先が、判定、削除した要素、代替方法、決定者を記録し、管理者が週1回または月1回の見直しで、繰り返される質問をルールへ反映します。ただし、共有用の事例集へ元の図面や個人情報を載せると、別の漏えい経路になります。判断の理由を伝える範囲に一般化し、詳細記録は閲覧者を限定したまま残しましょう。
入力履歴と出力の保存先も、利用環境と自社方針に合わせて決めます。手で貼り付ける場面だけでなく、OCR、フォーム、クラウドのファイル連携を通じてAIが資料を読める経路も対象です。外注先へ図面を共有する際の版と閲覧権限の管理も参考に、誰にどの資料を見せているかをたどってください。そのうえで、共有先の権限とAIが取得してよい範囲を別々に定めます。
新しいAI、連携機能、アカウント設定、取引条件が加わったときは、以前の許可をそのまま引き継がないようにします。変更担当者が影響する用途を調べ、再審査が済むまで該当する入力を止める流れを決めておきましょう。誤入力などの報告も、週次の見直し日を待たずに扱います。改訂後は対象者へ変更点を伝え、古いルールで入力が続かないようにします。
よくある質問
ここからは、入力前の相談で迷いやすい点を見ていきます。資料名だけで判断せず、実際の文面、使う環境、取引上の条件を合わせて考えると、次の相談先を決めやすくなります。
社名だけ伏せれば、図面や不良報告をAIに入力してもよいですか?
社名を伏せるだけでは足りない場合があります。図番、製品名、寸法、公差、地域、納期、ロット、写真の背景などから案件が分かることがあるためです。原本をAIへ送って加工させるのではなく、社内で一般化した文章を作り、指定した担当者に入力範囲を判定してもらいましょう。
取引先から受け取ったPDFやメールを要約したいとき、どの段階で承認を取るべきですか?
貼り付けやアップロードより前に判断を受けます。取引先名、担当者、価格、納期、案件情報と取扱条件を社内で読み、許可された範囲へ加工してください。条件が分からない場合や、固有情報を外すと目的を果たせない場合は、営業責任者や契約担当者へ相談します。先にAIへ入力し、後から承認を求める順番にはしません。
AIが作った不良原因の候補を、是正処置書や顧客への回答に使ってもよいですか?
AIが挙げた原因だけで、是正処置や顧客への回答を決めることは避けましょう。もっともらしい説明でも、その現場で起きたことを示す証拠にはならないからです。担当者が現場観察、測定値、工程記録で裏付けを取り、未確定の点と判明した事実を分けたうえで、所定の承認者へ文書を回してください。
現場社員が個人アカウントのAIを業務で使っていた場合、最初に何を調べるべきですか?
まず新たな業務入力を止め、入力した情報の種類、日時、サービス、添付、共有や出力の範囲を管理者へ伝えます。その際、証跡を消すために履歴やファイルを独断で削除せず、社内の事故対応手順に沿って保存とアクセス制限を進めてください。状況調査のために同じ資料を別のAIへ送り直すことも避けます。早く範囲を把握できるよう、本人が相談しやすい報告先を用意しておきましょう。
社内専用のAIなら、図面や工程条件を無条件で入力してよいですか?
「社内専用」という名称だけで、図面や工程条件をすべて入力可能にはできません。保存先、管理者、閲覧者、外部連携、提供事業者の取扱いが、会社の方針や取引条件に合っているかを調べるからです。導入担当者が環境を審査した後も、資料ごとの許可範囲と出力の利用先を定めて運用します。
参考にした公式情報
個人情報保護委員会は、入力する個人情報の利用目的と、サービス側の取扱いを踏まえた判断を求めています。下記には営業秘密の管理資料や、組織内のルールを検討するためのガイドラインの案内も挙げました。本記事の4区分は社内ルール案であり、法令・契約の条件に代わるものではありません。実際に採用する際は、担当者が各資料と自社の契約・規程を照らし合わせ、許可範囲を決めてください。
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について|個人情報保護委員会
- (参考)営業秘密を巡る新たな課題への対応~啓発資料の改訂など~|経済産業省
- 営業秘密~営業秘密を守り活用する~|経済産業省
- 生成AIの利用ガイドライン|一般社団法人日本ディープラーニング協会
まとめ
まずは、使えるAIと相談先を決め、図面原本、取引先を特定できる資料、不良の証跡をそのまま入力しない方針を共有しましょう。次に4区分へ自社の情報を当てはめ、誰が加工し、どの文面と用途を承認するかを書き込みます。60秒フローは入力前の入口として使い、疑問が残れば相談へ回します。運用後は迷った情報やルールへの追記を月ごとに振り返り、環境や取引条件の変更にはその都度対応していくと、現場任せにしない使い方を続けやすくなります。

