見積と実績を比べるときは、同じ受注の仕様・数量・費用範囲をそろえ、費用ごとに「実績−見積」を計算します。ただし、差額が分かっただけでは、作業時間が延びたのか、単価が上がったのかまでは判断できません。そのため、差が大きい項目から日報や材料の記録へ戻り、作業時間、単価、追加作業のどこが変わったかを調べます。提出済みの見積は残し、分かったことを次回用の見積へ反映するところまでを、一続きの振り返りとして進めましょう。
この記事では、完了した受注の原価、つまりその仕事にかかった費用を社内で振り返る手順を説明します。比較に使う工数は、作業に使った時間のことで、人の作業は人数を掛けた「人時」で表します。一方、機械は人の時間と分け、この記事では1台の稼働を「時間」で示します。どちらも時間を使う数字ですが、同じ単位として足さず、それぞれに対応する単価で費用を求めてください。以下の数値はすべて架空で、金額は税抜です。日報から求めた原価は、給与計算や会計上の利益と同じではありません。
比較の出発点は、同じ受注・数量・費用範囲にそろえること
比較の出発点は、合計金額を見る前に、見積と実績で仕事の条件が同じかを見直すことです。たとえば、見積時の50個が受注後に60個へ変わったなら、追加10個を作る費用が増えます。このとき、合計金額が増えたという理由だけで作業の効率が下がったとは言えません。見積担当者は当初の数量と変更後の数量を並べ、追加生産に伴う段取りも書き出しましょう。段取りとは、品物を固定する道具(治具)や工具の取り付けなど、加工を始める前の準備作業です。
そのため、最初に手元へ置くのは、提出した見積書と受注後の変更記録です。数量だけでなく、図面や作業範囲、費用をどこまで含めたかも次の表に沿ってそろえます。先に比較条件を決めておけば、受注後に増えた仕事や資料の記録漏れを、原価の悪化と混同せずに比べられます。
| 項目 | 使う資料と、記入する内容 |
|---|---|
| 受注と見積の識別 | 提出した見積書の受注番号・見積番号・版番号。変更があれば、誰がいつ承認したかも残す |
| 仕事の条件 | 図面の版、数量、検査・納入条件。自社で行う作業と外注へ出す作業の範囲 |
| 工数の範囲 | 日報の段取り・通常作業・検査・手直し。人数、分・時間の単位、同時作業の扱い |
| 費用の範囲 | 材料費、人件費、機械費、外注費。複数の仕事に共通する費用を含める場合は、その割り当て方 |
| 集計の状態 | 作業の完了日、材料を倉庫から出した量と戻した量、外注請求の到着状況 |
表の「集計の状態」は、金額をどこまで確定値として扱えるかを知るための項目です。請求書がまだ届いていない外注費は、費用が発生していないわけではないため、ゼロ円にはしません。外注担当者が回答書などから暫定額を入れ、「未着の請求書」「担当者」「入手予定日」を併記します。資料が届いたら金額と更新日を残して差し替えましょう。「作業が終わった状態」と「原価が確定した状態」を分けておくと、後から金額が変わっても、その理由を元の資料までたどれます。
日報・材料・外注の記録を受注番号で結び、二重計上を防ぐ
比較条件を決めたら、その条件に当たる実績を受注番号で集めます。集計担当者は既存の日報、材料を使った記録、外注先の回答書・請求書を結び、比較表には元資料のファイル名や保管場所も残しましょう。金額だけを転記すると、差が出たときにどの記録から計算したかを探し直すことになるためです。
ただし、資料が増えたからといって、そこに書かれた時間をすべて足せば良いわけではありません。日報に手直し時間を含めているなら、手直し表は内容を調べるための資料として使います。同じ時間を両方から足すと、人件費が二重に計上されるためです。どちらを金額計算の元にするかを集計前に決め、もう一方は差の理由を調べるときに参照すると良いでしょう。
また、時間の記録は人数と単位を合わせてから金額へ換算します。人の工数は、1人が2時間作業した場合も、2人が1時間ずつ作業した場合も2人時です。一方、機械が1時間動いた記録は1時間のまま扱います。日報が分単位なら60で割って時間に換算し、人件費の単価は「円/人時」、機械費は「円/時間」と照合してください。記録された時間と単価の単位を合わせることで、人数や分・時間の違いを費用の差に混ぜずに計算できます。
ここまでの集計に使う欄が日報にない場合は、作業日報の項目と書きやすい形式を参考に記録する項目を見直すのもひとつです。手直しの時間だけでは内容が分からない場合は、不良率と手直し時間を一緒に記録する方法も参考になります。どちらを使う場合も、金額計算の元にする時間を二重に足さないという扱いは同じです。
こうした実績を次の見積に使う例として、中小企業庁の2020年版中小企業白書は、株式会社マコト精機が加工・組立の時間を製品別の作業伝票に蓄積した取り組みを紹介しています。この事例で参考になるのは、過去の作業時間を見積の根拠として残す点です。受注番号と元資料を結ぶ作業も、今回の差額を出すだけでなく、次回の見積でどの実績を使ったかを説明するための土台になります。中小企業白書の事例2-2-7を読む
架空例:同じ50個でも、原価は11,000円増えている
記録と単位をそろえた後、費用の差がどのように表れるかを架空の受注で見てみましょう。ここでは、図面・数量・工程が変わらない50個の受注を比べます。人の単価は3,000円/人時、機械は2,000円/時間で、双方に同じ費用を含めていないものとします。実績の材料費・外注費は確定し、日報の対象作業もすべて集計した例です。
この例では、材料や人の作業などの費用に加えて、間接費も原価に含めます。間接費とは、個別の受注へ直接結び付けにくい共通費用のことです。他の区分に入っていない費用を、小計の10%で割り当てる仮のルールとします。なお、10%はすべての会社に当てはめる数字ではありません。自社で異なる割り当て方を採用している場合は、そのルールを見積と実績の両方へ適用してください。
| 区分 | 見積 | 実績 | 差(実績−見積) |
|---|---|---|---|
| 材料 | 20,000円 | 22,000円 | +2,000円 |
| 人の作業 | 6人時×3,000円=18,000円 | 8人時×3,000円=24,000円 | +6,000円 |
| 機械 | 4時間×2,000円=8,000円 | 5時間×2,000円=10,000円 | +2,000円 |
| 外注 | 8,000円 | 8,000円 | 0円 |
| 小計 | 54,000円 | 64,000円 | +10,000円 |
| 間接費:小計の10% | 5,400円 | 6,400円 | +1,000円 |
| 原価合計 | 59,400円 | 70,400円 | +11,000円 |
表では、数量が同じ50個でも、原価合計は59,400円から70,400円へ11,000円増えています。受注額が80,000円のままなら、受注額からこの原価を引いた金額は、見積時の20,600円から実績の9,600円へ減ります。つまり、受注額と数量が変わらない案件でも、予定どおりの原価で作れたかは費用の実績を見なければ分からないのです。この金額は表に含めた費用との差であり、すべての会社に共通する会計上の利益ではありません。
ただし、原価が増えた部分を、すべて新たな現金支出と読むこともできません。間接費の1,000円増は、小計に10%を掛けた結果であり、現金の支出が別途1,000円増えたことを示すものではないためです。原価の数字を見たら、実際の支出が増えた部分と、割り当て方によって動いた部分を分けて読みましょう。そのうえで、どの費用から元の記録を調べるかを決めます。
工数差と単価差を分け、増えた費用の元をたどる
上の表で最も大きい差は、人の作業の6,000円です。この例では単価が変わらず工数が2人時増えているため、2人時×3,000円=6,000円になります。たとえば、日報で1人が行った段取りが30分、手直しが90分増えていたなら、内訳は段取り1,500円、手直し4,500円です。ここまで分けると、同じ「人の作業の増加」でも、聞き取るべき作業が見えてきます。
そこで、比較表に「段取りに時間がかかった」とだけ書くのではなく、作業担当者へ日報の日付と受注番号を示し、何に時間を使ったかを聞きます。材料の2,000円増は倉庫から出した材料の量と購入単価、機械の2,000円増は稼働時間の記録をそれぞれたどってください。金額が同時に増えていても、三つの差を同じ原因と決めつけることはできません。差の項目ごとに元資料へ戻ることで、時間が増えた話と単価が変わった話を分けて聞けます。
一方で、時間単価も変わった場合は、差額のすべてを工数の増加として扱わないようにしましょう。別の架空例として、見積が6人時×3,000円=18,000円、実績が8人時×3,200円=25,600円なら、差額は7,600円です。次の表では、この7,600円を工数と単価による差へ分けるため、工数差を見積単価で、単価差を実績工数で計算しています。
| 差の種類 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 工数が増えた分 | (8−6)人時×3,000円/人時 | 6,000円 |
| 単価が上がった分 | 8人時×(3,200−3,000)円/人時 | 1,600円 |
| 合計 | 6,000円+1,600円 | 7,600円 |
この分け方では、工数が増えた分は6,000円、単価が上がった分は1,600円です。社内の共通費用の割り当て方を変えて単価が上がったなら、後者の1,600円はそれだけで作業が遅くなった証拠にはなりません。比較表には採用した単価の適用日と計算方法も残し、作業の記録と単価の変更を分けて追えるようにします。なお、見積額がゼロの項目は差額で示してください。ゼロで割る増減率は計算できないため、率の欄は「算出対象外」とします。
次回の見積へ入れる仕事と、今回だけの不具合を分ける
差の理由が分かったら、次に決めるのは、その実績を次回の見積へどう使うかです。毎回行う仕事が抜けていた場合と、今回だけの不具合で時間が増えた場合では、残す対応が異なります。1件だけ長くかかった実績を全受注の標準にすると、一時的な事情まで次回の金額へ上乗せしてしまうためです。同じ図面・数量・作業範囲の複数件と比べたうえで、次の表のように、誰が何を次へ残すかまで決めましょう。
| 記録から分かったこと | 担当者が次へ残す内容 |
|---|---|
| 毎回行う検査が見積から抜けていた | 見積担当者が検査条件と想定工数を次回用の項目へ追加する |
| 材料の使用量は同じで、購入単価が変わった | 購買担当者が新単価と適用日を伝え、見積担当者が単価表を更新する |
| 今回だけの治具不具合で手直しが増えた | 現場担当者が治具の処置内容と処置後の状態を記録する。治具は品物の位置や姿勢を固定する道具で、今回の手直し時間は通常工数へ一括加算しない |
| 受注後に仕様が追加された | 受注担当者が変更の承認記録を残し、追加作業の工数・費用を元の条件と分ける |
表のように、毎回行う検査なら見積の項目へ加え、今回だけの治具不具合なら処置内容と処置後の状態を残します。ただし、原因がまだ分からない段階で、担当者の能力や段取りの悪さと結び付けてはいけません。たとえば、「9月の材料単価が不明」「購買担当へ回答を依頼」「回答予定日は9月30日」のように、足りない情報、連絡する相手、回答期限を残す方法があります。この日付も説明用の架空例です。原因を決めつけるより、次に誰から何を受け取れば判断できるかを残しておくと良いでしょう。
受注1件の振り返りを、次回の見積までつなげる手順
ここまでの比較を一度に全受注へ広げる前に、最初は完了した受注1件で試してみましょう。集計担当者と見積担当者が同じ受注を見ながら進めると、実績のどの部分を次回用の数字へ移すかを話し合えます。提出済みの見積を保存し、次回用の版を別に作ったうえで、次の順に進めてください。
- 比較する受注を決める。提出した見積書と変更の承認記録を使い、図面・数量・作業範囲をそろえる。
- 実績を集計する。日報、材料の払出・戻し、外注請求を受注番号で結ぶ。未着資料は暫定額と入手予定日を残す。
- 費用ごとに差を出す。実績から見積を引き、差が大きい項目の時間・数量・単価を元資料と照合する。
- 差が生じた理由を聞く。対象の日付と作業を示して現場・購買・受注担当へ問い合わせ、次回も行う仕事と今回だけの事情を分ける。
- 次回用の見積を更新する。変更内容・担当者・適用日を記し、次に同じ条件の受注が来たら、改定した想定と実績を比べる。
この手順で残すのは、差が出た理由と、次回用の見積で変えた内容です。提出版まで上書きすると、当時どの条件で見積もったかが分からなくなるため、過去の判断と実績はそのまま残します。次回用の数字だけを別の版へ反映すれば、見落とした検査や変わった単価を次の受注で使えます。さらに、同じ条件の受注が来たときに改定後の想定と実績を比べれば、どの項目を見直した結果なのかもたどれます。
比較したいのか、次回の見積を作りたいのかで帳票を選ぶ
ここまでの比較は、自社のExcelで表を作っても進められます。表を作る際は、まず「完了した1案件の見積と実績を比べたい」のか、「振り返りで決めた数字を使って次回の概算見積を作りたい」のかを分けると良いでしょう。当メディアの有料帳票にも、この二つの用途に対応する別の商品があります。ただし、どちらも元資料の数字を利用者が入力する商品です。帳票を使えば記録が自動で集まるというものではないため、日報や材料・外注の資料を受注番号で結ぶ作業は先に行ってください。
自社商品・有料|1案件の振り返りに
見積・実績原価比較Excel(T10)
見積と実績の工数・費用を並べ、差額を次の見積へ生かしたい方向けの帳票です。この記事の50個の例のように、1案件の見積と実績を費用ごとに比べる用途に使えます。入力用と架空記入例の2シートを収録しているため、記入例を見ながら自分の案件の数字を入力してください。
- できること:見積・実績それぞれ最大8工程の人件費と機械費を別々に計算。材料費・外注費などを加えた原価、1個当たりの原価、売上、利益・利益率を比較。
- 入力するもの:延べ人分・延べ台分、単価、費用を手入力。人分は人数×分、台分は台数×分で、この記事の6人時は360人分です。数量は1個以上の整数、金額は税抜円で統一。
- 集計途中の扱い:実績が「集計中」の間は利益の比較を保留。費用の記入漏れを自動で見つける機能はありません。
- 利用者が決めること:数量が違う案件を同じ数量へ自動換算しません。同時作業や、1人で複数の機械を受け持つ場合の時間配分も利用者が決めます。
- 対応環境:Windows版Excel 16.0で動作検証済み。Mac版Excel、Googleスプレッドシート、Excelからの印刷・PDF出力は未検証。同梱PDFは架空記入例の固定見本です。
T09や帳票9点セットには含まれない別商品です。この商品だけで購入できます。画面や使い方は見積・実績原価比較Excelの紹介ページに掲載しています。
5,980円(税込)。Excel・使い方・利用条件・架空記入例PDFの4ファイルをZIPで提供します。価格・仕様の参照日:2026年10月4日。
まず1件の差を、次回に使う工数・単価へつなげる
見積と実績の比較では、差額を出した後に、その差がどの仕事や単価から生じたかをたどります。条件をそろえ、時間・数量・単価を元の記録と結び付けることで、次回の見積へ足す仕事と、今回だけの不具合を分けて考えられます。ただし、数量や作業範囲が変わっているなら、原因を聞く前に比較条件へ戻りましょう。原価が増えたという結果だけで、作業の良し悪しを決めないことが出発点です。
まずは完了した受注を1件選び、提出した見積書と日報を並べてみてください。資料が足りない費用には暫定額と入手予定日を残し、比較できる項目から差を出します。そのうえで、最も大きい差について担当者へ対象の日付と作業を示して聞き、毎回行う仕事なのか、今回だけの事情なのかを判断しましょう。分かった内容を次回用の見積へ残すところまで進めれば、今回の振り返りを次の受注で使えます。

