加工見積は、材料・人の作業・機械・外注・その他の間接費に分け、対象の費用を重複なく積み上げるところから始めます。ただし、項目を分けただけでは、同じ費用が時間単価と別欄の両方へ入ることがあります。そこで、図面の版、数量、工程、検査・納入条件をそろえ、単価に含む費用を先に決めましょう。その条件に対応する原価を出してから、利益を含む提示額を検討します。
この記事は、小規模工場で受注前の見積根拠を残すための、社内検討の進め方です。以下の金額・時間・率はすべて説明用の架空例で、加工料金の相場を示していません。また、計算は税抜で統一します。税務上の原価計算や会計処理を決める帳票ではないため、自社で見積に含める範囲を明らかにして使ってください。
まず費用を5つに分け、含める範囲を書く
中小機構のJ-Net21では、製造原価を原材料費・労務費・製造経費に大別し、内製と外注の範囲を明らかにする考え方を紹介しています。本記事では、見積担当が費用の重なりを追いやすいよう、機械と外注を取り出した5区分を使います。分類名が違っていても、元の費用がどこに入ったかをたどれることが先です。J-Net21の原価と内外製の解説
| 区分 | 計算の根拠 | 費用の重なりを見る点 |
|---|---|---|
| 材料 | 使用する材料量×調達単価。切断ロスや最低購入量の負担も決める | 外注先の材料込み価格と重なっていないか |
| 人の作業 | 段取り・加工補助・検査などの延べ時間×人の時間単価 | 機械の時間単価に人件費を含めていないか |
| 機械 | 見積対象の使用時間×社内で定義した機械の時間単価 | 電力・償却・保守等のどこまでを含むか |
| 外注 | 回答の条件と照合した、この受注にかかる合計額 | 材料、検査、運送の含有範囲を照合 |
| その他の間接費 | 上の区分に含まれない費用を、社内で決めた基準で割り当てる | 時間単価に含めた費用を再度載せていないか |
上の5区分は、費用の置き場所を決めるための例です。例えば機械費に電力を含めたなら、その対象分は「その他の間接費」へ再び加えません。一方で、事務所費などをどこにも含めていなければ、合計との差額をそのまま「会社に残る利益」とは呼べません。単価表と支出の内訳を照合し、含めた費用と見積の外にある費用を区別しましょう。
図面と見積条件を固定してから金額を入れる
同じ品名でも、公差や表面処理、検査成績書、梱包方法が変われば作業内容は変わります。そのため、前回の単価を複写する前に、次の条件を見積番号へひも付けます。未回答の条件はゼロ円で埋めず「回答待ち」とし、仮定する場合はその内容を残してください。仮の条件で提示するなら、適用範囲と再見積になる条件も相手へ伝えます。
- 図面番号・版、材質、数量、希望納期。
- 内製する工程と外注する工程、材料の調達者。
- 検査項目、全数・抜取の条件、提出・保存する記録。
- 梱包、運送、分納の回数と負担範囲。
- 材料・外注の回答日と有効期間、社内単価の改定日。
外注先の回答は、金額だけでなく対象工程と支給品を合わせて読みます。材料込みの回答なのか、検査や運送まで含むのかで、自社側へ積む費用が変わるためです。対象を照合する項目は外注先への加工指示で漏れを防ぐ方法も参考になります。見積額に作業範囲と回答の有効期間を添えておくと、変更された部分を後から追いやすくなります。
架空例:50個の見積原価を積み上げる
ここからは、材料を自社調達し、機械単価には人件費を含めない条件で計算します。材料・人・機械・外注の小計に、そこへ含めていない間接費を10%加える社内ルールを仮定しました。ただし、10%は例示用の率です。自社で使う際は、何の費用をどの金額へ割り当てる率なのかを決め、既に単価へ含まれる費用を再び上乗せしないようにします。
| 費用 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 材料 | 受注全体の材料額 | 20,000円 |
| 人の作業 | 延べ6人時×3,000円/人時 | 18,000円 |
| 機械 | 延べ4台時×2,000円/台時 | 8,000円 |
| 外注 | 受注全体の回答額 | 9,000円 |
| 4区分の小計 | 20,000+18,000+8,000+9,000 | 55,000円 |
| 残る間接費 | 55,000×10% | 5,500円 |
| 見積原価の合計 | 55,000+5,500 | 60,500円 |
表の原価合計を製作数で割ると、1個あたりは60,500÷50=1,210円です。ここで、人の6時間は延べ作業時間、機械の4時間は機械費を計算する時間なので、単純に足して「作業者が10時間働く」とは読めません。人と機械が同時に動く区間も、それぞれの記録から費用を出します。元の時間を集める際は、作業時間を測るタイマーとストップウォッチの使い分けを参考に、計測の始点と終点をそろえましょう。
単価に含めた費用を、別の行で足していないかを見る
合計の計算が合っていても、含めた費用が重なっていれば原価は過大になります。反対に、どの区分にも載っていない費用は計算から抜け落ちます。そこで、見積担当と費用を管理する担当が元資料を見ながら、次のように計上先を照合します。費用を消すことが目的ではなく、同じ対象分を一度だけ数え、抜けた対象分を補う作業です。
| 見つかった状態 | 計上先を決める方法 |
|---|---|
| 機械単価に電力を含め、別欄にも同じ電力費がある | 機械単価側へ含めるなら、別欄の同じ対象分を除く |
| 外注回答に材料を含むが、自社材料費にも同じ分がある | 調達者と対象数量を照合し、自社負担分だけを残す |
| 段取り込みの加工単価に、同じ段取り費を追加した | 込み・別建てのどちらかへ統一する |
| 完成品の検査時間を加工時間と検査時間に重複記録した | 含有範囲を明示し、延べ時間の元記録を一つにする |
単価表には「含む費用・含まない費用・適用開始日」を添え、改定前の版も残します。そうしておけば、単価が変わったときに、過去の見積まで新しい内訳へ置き換えずに済みます。複数の工程や案件へ割り当てる費用は、元額と配分基準、配分先を追えるようにしてください。本記事では工程別の配分率そのものは決めず、使う基準を残すところまでを扱います。
原価への上乗せ率と、売価に対する利益率を分ける
見積原価が出たら、次は率の意味を合わせます。原価へ20%上乗せするなら、提示額は60,500×1.20=72,600円です。一方、提示額からこの原価を引いた差額を、提示額の20%にするなら、60,500÷(1−0.20)=75,625円となります。同じ20%でも、原価を分母にするか売価を分母にするかで結果が変わるため、「利益を20%」だけで計算を始めないようにしましょう。
この差額は、あくまで今回定義した見積原価との差です。含めた費用の範囲によっては、会計上の粗利益や営業利益とは一致しません。したがって、社内では費用範囲と率の定義をそろえ、そのうえで顧客へ提示する金額と条件を決めます。計算上の目標を満たす価格と、相手と合意した受注価格も別なので、交渉で変わった内容は見積の版と一緒に残します。
見積を出す前に、元資料と版を残す
- 計算に使った図面、材料回答、外注回答を見積番号でまとめる。
- 費用の重複・抜けを元資料と照合し、時間と単価の単位をそろえる。
- 原価、提示額、含めた作業、別途見積にする条件を分けて記録する。
- 内容を点検し提出を認めた担当と提出日を残し、提出版を保存してから送る。
上の提出手順を済ませた見積は、元資料とともに保存します。次の受注で使うときは、合計額より先に数量・図面の版・含有範囲を比べましょう。変わった条件の根拠を新しい版へ反映し、前に提示した版も残しておけば、価格が変わった理由を説明しやすくなります。前回の数値を使えるかどうかは、条件を比べてから判断することがポイントです。
T09はWindows版Excelで、計算・保存・再読の検査を済ませています。一方、Mac版Excel、Googleスプレッドシート、実際の現場運用・実印刷は未検証です。使い始めは記入例と説明書を読み、自社の費用範囲と入力した結果を照合してから業務へ取り入れてください。
概算の一覧と、工程別の比較を使い分ける
自社商品(有料)|見積・実績原価比較Excelは、人件費と機械費を別々に計算し、1案件の見積・実績を各8工程まで比べる帳票です。T09は複数案件の概算見積を一覧にする用途、T10は1案件の内訳と作業後の振り返りに使います。どちらも自動で原価条件を決めるものではないので、まず自社で残したい比較の単位から選びましょう。
T10も工数・単価・費用は手入力で、間接費には自社基準で計算した案件合計を入れます。費用の配賦や同時作業の時間割当は自動判定しないため、入力前に根拠をそろえます。Windows版Excelで動作を検査済みですが、Mac版Excel・Googleスプレッドシートは未検証です。また、T09や帳票9点セットには含まれない別商品です。
価格は5,980円(税込)です。案件ごとの比較方法と対応範囲は、販売ページでご覧いただけます。見積・実績原価比較Excelの内容・利用条件を見る

