塗装された板を見て「厚さを測りたい」と伝えても、塗膜と板そのものでは選ぶ機器が変わります。まず、管理したいのが表面の皮膜か、材料の肉厚かを分けましょう。皮膜なら素地と皮膜の性質に応じた膜厚計、母材を片面から調べるなら超音波厚さ計が候補になります。ただし、方式名だけで決めず、現物に近い試料で目的の厚さを測れるか試すことから始めます。
購入時に表示桁数や価格だけを比べると、現場でプローブが届かない、数値をどう判定するか決まっていないといった課題が残ります。そのため、材質、表面状態、形状、管理値、記録方法を同じ選定シートへ書き込みます。この記事では、受入・工程・出荷の各担当者が、同じ対象を測り直せるように、選定から測定記録までの進め方を解説します。
| 状況 | 判断 | 最初の対応 | 次に調べること |
|---|---|---|---|
| 鉄・鋼など磁性金属上の非磁性皮膜 | 電磁誘導式を候補にする | 素地の磁性と皮膜が非磁性かを調べる | 皮膜の性質、厚さ範囲、曲面・端部の有無 |
| アルミ・銅などの上の絶縁性皮膜 | 渦電流式を候補にする | 素地が導電性を持つ非磁性金属かを調べる | 皮膜が絶縁性か、実ワークで安定するか |
| 板・配管・成形品などの肉厚 | 超音波式を候補にする | 片面から測る理由と対象の構造を調べる | 材料、粗さ、曲率、接触媒質の使用可否 |
| 材質や皮膜構成が不明 | 方式を確定しない | 図面、材料証明、工程情報を集める | 同等試料での試し測り方法 |
厚さ計は「皮膜を測るか」「母材を測るか」で候補を分ける
最初に、表示したい値がどの層の厚さかを図面へ示します。塗膜、めっき、アルマイト、樹脂ライニングなどなら、皮膜と素地の組合せに合う膜厚計を検討します。一方、板、配管、鋳物、樹脂成形品などの母材を片面から非破壊で調べる場合は、超音波式が候補です。すべての材料や形状を同じ機種で測れるわけではないため、冒頭の表は方式を絞る出発点として使ってください。
たとえば、塗装済み部品の塗膜厚と母材厚は、同じ管理値にまとめられません。検査票にも「塗膜」「母材」と記し、それぞれの要求を分けます。多層皮膜、導電性皮膜、特殊めっき、粗い面、強い曲面、狭い箇所では、単純な材質名だけで測定可と判断しないことも大切です。各層の構成と測定位置をメーカーへ伝え、実ワークで適合を試しましょう。
測定対象から厚さ計の方式を絞る順序
方式を絞るときは、購買担当だけでカタログを読むより、検査担当者と品質担当者が条件を持ち寄ると話が進みます。検査担当者はプローブを当てる場所、品質担当者は何の厚さをどの基準で判定するかを示します。次の順序で材質と層の性質を調べ、不明な条件は候補機を決める前に回答を得てください。
- 皮膜を測るなら、素地と皮膜の性質を調べる。鉄・鋼・フェライト系ステンレスなど、磁性金属上の非磁性皮膜は電磁誘導式の候補となる。
- 素地がアルミや銅、非磁性のオーステナイト系ステンレスなどの導電性金属で、皮膜が絶縁性なら渦電流式を候補にする。
- 鉄系と非鉄系の両方を扱う場合は、両方式対応の機種も比較する。調整条件と測定可否は対象ごとに試す。
- 母材を片面から測るなら超音波式を候補にする。材料、肉厚範囲、曲率、粗さ、塗膜の影響、接触媒質の使用可否を調べる。
- 材質名だけで即決せず、加工状態による磁性の変化なども含め、実ワークへの適合を試す。
超音波式は、材料中を音が伝わる時間と音速から厚さを求めるため、音速設定や接触条件が結果に影響します。塗装の上から測る場合も、表示が単純に「塗膜厚+母材厚」になるとは限りません。音速の異なる塗膜が母材厚の誤差になることがあるからです。母材を測るなら、対象に適合する塗膜影響の除去方法などをメーカーと検討してください。原理と方式ごとの制約は、Evident公式の解説(https://ims.evidentscientific.com/ja/learn/ndt-tutorials/thickness-gauge/coatings)も参考になります。
購入前に現物と図面から集める8つの条件
発注前には、検査担当者が図面と現物から下の8条件を記入します。範囲だけを伝えるよりも、届き方や接触、記録まで含めた候補を相談しやすくなるためです。まだ分からない項目は空欄にせず、設計、品質、外注先などの相談先と回答予定日を記してください。未回答の条件を、対応できるものとして機種を決めないようにしましょう。
- 対象物の名称、品番、ロットの管理方法、測定する工程または受入・出荷の区分
- 測る対象が皮膜か母材か。皮膜なら皮膜名、母材なら材質名
- 素地の磁性・導電性と、その根拠となる図面、材料証明、材料表示など
- 想定する下限値と上限値、帳票で使う単位。皮膜はμm、肉厚はmmなど
- 平面、曲面、端部、穴周辺、小径部、狭所など実際の測定位置
- 粗さ、油、粉じん、さび、濡れ、既存塗装の有無と清掃方法
- 測定面に片側からしか触れないか、両面から測れるか
- 手書き、帳票転記、保存データ照合など、判定までに使う記録方法
受入品を測る場合は、抜取りの方法、異常品の置き場、対象ロットとの結び付けも受入基準へ含めます。厚さの別紙だけが残っても、どの受入品の値か分からなければ処置に使えないためです。外注品の受入検査で扱う項目も参考に、受入番号と測定記録を対応させてください。
測定範囲・読取値・プローブ形状は管理値から決める
候補が絞れたら、許容する幅に対して、その測定方法を使えるかを評価します。最小表示量は読める細かさであり、機器の誤差や測定の不確かさ、繰り返し性とは別です。規格値と社内管理値を区別し、回数、採用値、端数処理、合否判定のルールを先に決めましょう。試料で値が表示されたことだけで、その桁まで判定できるとは扱わないようにします。
測定範囲は通常値だけでなく、実際に管理する最薄部と最厚部を含めて選びます。将来の品種も対象にするなら、その条件を別に記載してください。一体型か分離型か、どのプローブを使うかは、端部や穴の近く、小部品、曲面で適切に接触できるかを試して比べます。数値が出ても、その位置が仕様上の測定条件を満たすかまで照合しましょう。
測定データを保存する機能があっても、保存番号だけでは品番やロット、位置が分からない場合があります。そこで、保存番号と対象をどう結び付け、誰がいつ照合するかを導入前に決めます。たとえば、ロット完了時に記録を確定するなら、その前に未入力や位置の取り違えを調べる手順を入れてください。後から記憶で対応付ける運用を避けるためです。
対象に合う調整条件と基準を記録する
同じ製品でも、材質、形状、表面状態、当て方が変われば結果に影響します。日常の測定では、使った基準と点検結果、調整した内容を残すことから始めましょう。なお、現場で表示を基準に合わせる調整と、機器の値と標準の関係を調べる校正は区別します。外部校正や証明書の扱いは、顧客要求と自社の品質管理ルールに従って決めます。
膜厚計の調整では、対象に合う素地と標準板などを、機種が指定する組合せと手順で使います。材質だけでなく形状や厚さも影響するためです。たとえばKettのLZ-200取扱説明書は、対象と同じ材質・形状・厚みの素地を使う調整を案内しています(https://www.kett.co.jp/wp-content/uploads/2019/08/lz-200_manual_web.pdf)。この機種の操作を全機種へ流用せず、基準の識別と結果を記録してください。超音波式も、基準試料の材料と厚さ、音速やゼロ点など、使用機種の手順に合う条件を定めます。
- 始業時は、機種の手順に従って基準片・試料で点検と調整を行い、点検値、調整内容、担当者、時刻を残す。
- 品種切替時は、材質、皮膜、曲率、厚さ範囲が変わるなら、対象に合う基準へ切り替える。
- 落下や衝撃後は使用を止め、機器の状態と既測定品への影響を調べる。プローブ交換後も指定の点検を行い、調整だけで正常と扱わない。
- 値に違和感がある時は合否を保留し、表面状態、調整、位置、方式への適合を調べる。無断で研磨や塗膜除去をしない。
基準を測った際の許容範囲と、外れたときの処置は事前に決めておきます。範囲外なら製品の判定を止め、汚れ、設定、基準片、プローブや機器の状態を調べてください。調整し直すだけで故障が直るとは限らないため、所定の点検を終え、責任者が使用可と判断してから再開します。中断前に測った品目についても、再測定する対象と処置を品質担当者が記録します。
測定位置と採用値のルールを検査標準に書く
機器と調整条件が決まったら、「どこを何回測り、どの値を判定に使うか」を図面や写真へ落とし込みます。位置No.を付け、帳票にも同じ番号を使うと、担当者が替わっても場所を追いやすくなります。特に厚さが変化する部品では、測りやすい場所を選ぶのではなく、要求された箇所と範囲を測れる手順にしましょう。
端部、穴周辺、傷、溶接部、急な曲面は、通常の測定条件では測れない場合があります。ただし、要求された箇所を測りにくいという理由で除外してはいけません。別のプローブや方法を検討し、未測定ならその状態を記録します。1位置当たりの回数、平均・最小・最大のどれを使うか、再測定の条件も事前に定め、都合のよい値だけを残さないようにしてください。配管などの残存肉厚の評価では、用途に定められた点検範囲や資格・技能の条件にも従います。
測定位置や判定方法を変える場合は、品質担当者が変更内容、改訂日、適用開始ロットを記録し、承認後の手順を現場へ渡します。現場では、そのロットに適用する帳票の版を使ってください。また、社内管理値があることと、顧客の合否要求を満たすことは別です。管理する対象と判定方法に未合意の点があれば、品質部門や取引先との合意を得てから反映します。
厚さ測定記録表の作り方と塗膜検査の記入例
測定記録は、数値だけでなく、その値を採った条件を追える形にします。品番、ロット、工程、測定対象、方式、機器・プローブの識別、調整条件、位置No.、元の測定値と採用値、単位、規格値、判定、日時、測定者、異常時の処置を設けましょう。元の値を残しておけば、採用値の計算や、後日の再評価にも使えます。
下の表は、鉄系ワーク上の塗膜を測る架空の記入例です。表示用の参考値は各位置の3回平均を整数のμmへ四捨五入すると決めた例で、位置No. 1は49、位置No. 2は51、位置No. 3は約47.67を丸めて48となります。ただし、表には適用する規格値が入っていないため、すべて判定保留です。この平均や丸めをそのまま自社の合否へ使わず、要求された採用方法と基準を先に記入してください。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 品番/ロット/工程 | AB-120/L2405-01/塗装後工程検査 |
| 測定対象/方式 | 鉄系ワーク上の塗膜/電磁誘導式 |
| 測定器・プローブ識別 | 管理No. TG-02/プローブP-02 |
| 調整条件 | ゼロ板Z-01、標準厚板S-50を使用。始業時の点検値と調整内容は別欄へ記入 |
| 位置No. 1 | 測定値:48、50、49 μm/表示用参考値:49 μm/判定:保留(基準未記入) |
| 位置No. 2 | 測定値:51、50、52 μm/表示用参考値:51 μm/判定:保留(基準未記入) |
| 位置No. 3 | 測定値:47、48、48 μm/表示用参考値:48 μm/判定:保留(基準未記入) |
| 規格値・社内管理値 | この例では未記入。適用する規格値と社内管理値、単位、採用・判定方法を分けて記す |
| 測定者/日時/異常時処置 | 担当者記名/測定日時/異常時は隔離・再測定・連絡先を記入 |
超音波式の記録には、基準試料、音速設定、調整内容、接触媒質、測定モード、塗膜の影響をどう扱ったかを加えます。単に「塗膜を含む」と書くのではなく、表示が何の厚さを表すか説明できる状態にしましょう。紙や検査成績書へ転記する場合は、単位、小数点、位置No.、判定を照合します。検査成績書の転記ミスを減らす照合手順も、この段階で役立ちます。
導入前の試し測りで比べる項目
導入前の試験は、値が出た時点で終えず、始業時の点検・調整から測定、判定、記録、保管まで通して行います。貸出機やデモ機を使えるなら、普段その作業を行う担当者に試してもらいましょう。同じ位置を測り直せるか、判定の根拠を残せるかまで見れば、仕様表だけでは気づきにくい負担も比べられます。
- 検査担当者が、実ワークまたは材質・厚さ・表面状態・形状が近い試料を準備した。
- 検査担当者が、最薄部、最厚部、曲面、端部近傍など、実際に管理する位置を測った。
- 複数の担当者が同じ位置を繰り返し測り、値のばらつきと作業姿勢を記録した。
- 始業時を想定し、点検・調整、測定、判定、記録、基準片による再点検までを通して試した。
- 手袋、油分、粉じん、姿勢、ケーブルの経路について、仕様との適合と作業への支障を調べた。
- 品番、ロット、位置No.、調整条件、元の値、判定を対応させて残せた。
- 本体、プローブ、基準片、接触媒質を一式で保管し、戻し忘れを防げる置き場を決めた。
試験後は、選定シートの「測定可否」「再現性」「記録性」「保管性」の4欄に、実施日、担当者、試料、結果を残します。合わなかった点も書くことで、購買担当が追加の試験や別機種の比較を判断しやすくなります。保管方法は、複数の測定器を守り戻し忘れを防ぐケースの選び方も参考に、本体とプローブ、基準片を対応させて決めてください。
温度などの環境条件を記録する運用が求められる場合は、測定時刻と環境の記録も結び付けます。温湿度データロガーの選び方|記録と対応を続ける点検表では、その記録を残す方法を紹介しています。すべての厚さ測定に同じ環境管理を追加するのではなく、材料と機器の条件、適用する測定標準に合わせて検討してください。
よくある質問
同じ部品に鉄の部分とアルミの部分がある場合、1台で管理できますか?
両方式に対応する機種は候補になりますが、1台で同じ調整のまま測れるとは限りません。鉄とアルミそれぞれについて、素地と皮膜の性質、位置、調整条件を分けて試します。自動切替機能がある場合も、意図した方式で測れているかを照合し、帳票には部位と方式を残しましょう。
塗膜の値が場所ごとに違うとき、何から調べますか?
まず、基準片を用いた点検と、位置、表面状態、当て方を調べます。ただし、場所ごとに膜厚が実際に違う可能性もあるので、差を機器の誤差と決めつけないでください。追加測定をする場合は位置No.と理由を残し、再測定前の値も保持します。都合のよい値へ置き換えるのではなく、どの場所にどの程度の違いがあるかを判断できる記録にします。
超音波厚さ計で塗装の上から母材の肉厚を測る場合、塗膜分を含めてよいですか?
母材の肉厚を管理するなら、塗膜の影響を受けた値をそのまま母材厚として採用できません。音速が異なるため、表示から塗膜の実厚を単純に引けばよいとも限りません。対象に合う測定モードや探触子、基準試料、塗膜の扱いをメーカーと検討し、目的の値を測れることを試験してください。塗膜を除去する方法を選ぶ場合も、製品や防食機能を損なわないよう、許可された手順で行います。
基準片やゼロ板は、どの品種でも共通のものを使えますか?
共通化できるかは、材質、形状、厚さ、表面状態と機種の調整手順によります。使えると判断した品番、基準片の識別、適用条件を品質担当者が標準書へ記してください。品種切替で値が安定しない場合は、基準だけを増やせば解決すると考えず、方式や当て方も調べ、その品種への適合を見直します。
測定器の保存データがあれば、紙や表計算の記録は不要ですか?
保存データから対象、位置、日時、測定者、調整条件、元の値と判定根拠まで追え、要求された保存方法を満たすなら、別の転記を減らせる場合があります。一方、数値と保存番号しか残らない場合は、対象との対応表などが欠かせません。導入前に検索と取出しを試し、保存期間、バックアップ、誰が記録を確定するかまで決めておきましょう。
まとめ
厚さ計選びでは、最初に皮膜か母材かを分け、素地と皮膜の性質、片面測定の条件から方式を絞ります。そのうえで、実ワークの形状や表面状態に合うか、求める値を測れているかを試してください。数値が表示されることと、その数値で製品を判定できることを分けると、選定で埋めるべき条件が明確になります。
導入後は、基準片や試料、調整日時、位置No.、元の測定値、採用方法、基準と判定を結び付けて残しましょう。ずれや再測定、記録漏れが出た際は、その記録から原因と既測定品への影響を調べます。見直しをする場合も、合格にするために基準を動かすのではなく、品質要求に沿った方法を承認してから適用してください。機器と帳票を一緒に運用することで、後から説明できる測定記録になります。

