検査記録表は、測定値を書くだけでなく、対象、適用した基準、測定の条件、判定、その後の処置をたどれる形にします。たとえば同じ寸法でも、別のロットや改訂前の図面による結果が混ざれば、そのまま比較できません。この記事では、共通情報、測定明細、異常処置の3層に分けて様式を作り、記入例で不足する情報を探す方法を説明します。
対象は、工程内、受入、出荷前などの検査結果を社内で残す担当者です。下の表で今の様式の問題に近い行を選び、どの情報を追加するか、どの元記録へ参照すれば追えるかを考えてください。欄を減らす場合も、顧客や適用基準が求める記録を省いてよいかは別に判断します。
| いまの状況 | 判断 | 最初の対応 | 続けて調べること |
|---|---|---|---|
| 測定値しか書いていない | 追跡情報が不足している | 品番・ロット・検査日時を追加する | 規格の根拠と使用測定器をたどれるか |
| 規格外時の対応が残らない | 処置の経過を残す欄を設ける | 対象範囲、一次処置、判断者と日時の欄を設ける | 保留品と通常品を区別できるか |
| 欄が多く記入されない | 記入の負担と重複を調べる | 記録要件と参照先を調べて重複欄の扱いを決める | 誰が、いつ記入するか決まっているか |
| 工程ごとに様式が異なる | 共通骨格をそろえる | 3層構成と表記ルールを共通化する | 工程固有で追加すべき条件があるか |
検査記録表は測定値だけでなく対象・条件・処置をつなげて残す
後から結果を追うには、何を、いつ、どの方法と基準で検査し、どんな結果を得て、誰がどう扱ったかがつながっていることが前提です。不適合の処置を別紙へ分けても構いませんが、本票と別紙の双方から同じ対象をたどれる番号を残します。測定値があることと、対象品を次工程へ渡せることは分けて扱いましょう。
まず、これから行う検査の項目・手順と、実施した結果の記録を区別します。同じ用紙に載せる場合も、指示と実績が混ざらない欄にしてください。取引先へ提出する検査成績書には提出先の指定があるため、この記事の社内記録用の例を、そのまま提出書類の条件と置き換えないようにします。
工程内検査なら段取り替えや実施時刻、受入検査なら受入番号、出荷前なら実際の出荷対象との対応を追います。このように工程で追加する条件は違っても、対象、判定根拠、結果、処置を結ぶという目的は共通です。使う場面を先に決めれば、毎行に書く情報と共通欄へまとめる情報を分けやすくなります。
列を作る前に対象単位・判定基準・記録時点を決める
品質担当者は、明細の1行を何の記録にするかを、記入担当者と決めます。1個の製品、測定箇所、サンプル、検査時刻などが混ざると、数値だけを集計しても対象が分からなくなるためです。下の例は行の作り方を選ぶためのものであり、全数検査か抜取検査かを任意に変える提案ではありません。
- 全数検査では、1行を1個または1測定箇所にするなど、対象を特定できる構成にする。
- 抜取検査では、上部にロット番号と抜取数を置き、明細でサンプル番号を追えるようにする。
- 定時検査では、1行を実施回または時刻帯とし、所定の開始・終了時刻と対象を残す。
- 初品、段取り替え後、定時、最終は、検査区分で区別する。
次に、判定に使う図面や基準書の番号、適用する版、対象箇所を記します。数値なら上下限と単位、外観なら所定の見本や照明などの条件へ参照できるようにしてください。新しい日付の資料が、そのロットへ適用する版とは限りません。記録した結果と当時の適用基準を対応させることが狙いです。
記入は実施時点に行うことを基本とし、検査作業の安全や所定の初動を妨げない時点を決めます。後から転記する場合は、元記録を残し、検査日時、記入日時、転記者を分けてください。記憶で数値を埋めず、分からない箇所は未記録として担当へ伝え、所定の扱いを判断してもらいます。
検査記録表の基本12項目を自社の要件と照らす
次の12項目は、数値測定を含む記録を見直すための基本例です。すべてをそろえれば検査や規格に適合するという意味ではありません。各項目を本票、共通欄、参照記録のどこへ残すかを決め、適用要件に合わせて検査数量や判定担当、異常時の処置も追えるようにします。
- 帳票名・版数:使用する様式を特定する。
- 検査日または日時:生産や処置の記録と照合する起点にする。
- 工程・検査区分:受入、初品、定時、最終などの位置付けを示す。
- 品名・品番:検査対象を識別する。
- ロット番号・製番・受入番号:対象範囲をさかのぼる番号を一つ以上選ぶ。
- 検査者:実際に検査した担当者を特定する。
- 検査項目:寸法、外観、数量など、実施した内容を示す。
- 規格または判定基準:合否を決めた根拠を残す。
- 単位:数値の意味を固定する。
- 実測値または観察結果:得られた数値や観察した状態を残す。
- 判定:合格、不合格、保留、測定不能を区別する。
- 使用測定器・測定方法:実際の器具、治具、方法をたどれるようにする。
不適合の明細と、保留・隔離・再検・最終判断の経過は、対象番号で結んで残します。同じ用紙の別欄でも別記録でも、読む人が行き来できれば経過を追えます。一方、目的が分からない自由記述欄は、すぐ削るのではなく、誰が何に使うかと記録要件を調べ、重複する転記を減らせるか検討しましょう。
上部・明細・異常処置欄に分けたテンプレート
下の様式例では、上部に共通情報、中央に測定明細、下部に異常時の経過を置いています。品質担当者は、記入担当者に1件分を試し書きしてもらい、対象と測定器、適用基準、処置を別の担当者も追えるか読んでみてください。正常な例だけでなく、未測定や再測定が起きた場合も試すと、不足する欄が見つかります。
| 上部の共通情報 | 帳票名:[ ]/版数:[ ]/改訂日:[ ]/品名・品番:[ ]/ロット・製番・受入番号:[ ]/工程:[ ]/検査区分:[初品・定時・最終・受入など]/検査日時:[ ]/検査者:[ ] |
|---|---|
| 測定明細の列 | No./サンプル番号/検査項目/規格下限/規格上限/単位/実測値または観察結果/判定/測定器管理番号・測定方法 |
| 異常処置欄 | 不適合の内容:[ ]/該当数・対象範囲:[ ]/発見時刻:[ ]/一次処置:[保留・隔離・再検・選別・連絡など]/再検結果:[ ]/判断者・日時:[ ]/最終判断・保留解除:[ ]/関連記録番号:[ ] |
表の異常処置欄には、処置の内容だけでなく、誰がいつ何を判断したかまで残します。欄が狭ければ別紙を使い、本票に対象範囲、初動、別紙番号を記してください。電子管理でも記録番号を共通にし、ファイル名や保存場所を変えた後に参照が切れていないかを点検します。
寸法検査の記入例から対象と処置をたどる
次の表は、架空の部品で記入方法を示した例です。数値や管理番号は実際の検査条件ではなく、品物の合否をそのまま判断する基準にも使いません。自社の図面、指定方法、判定ルールへ置き換え、表のどの情報から対象や処置へ戻れるかを見てください。
| 上部共通情報の記入例 | 品名・品番:部品A/P-017、ロット:L-001、工程:加工後、検査区分:初品、検査日時:YYYY年MM月DD日 09:20、検査者:担当者記号Q |
|---|---|
| 明細の記入例 | No.1、検査項目:内径、規格下限:9.95、規格上限:10.05、単位:mm、実測値:10.01、判定:合格、測定器:管理番号MG-12 |
| 不適合時の記入例 | No.2、実測値:10.08mm、判定:不合格、対象範囲:同一段取りの加工品を保留し前後の範囲も調査、一次処置:工程責任者へ連絡し所定の再測定を依頼、報告先:担当者記号R、保留解除は未決、関連記録番号:NC-001 |
上の例では、10.01mmは例示した9.95〜10.05mmの範囲内にあり、10.08mmは上限を超えています。ただし、実際の合否は測定方法や適用する判定ルールを含めて決めるもので、値だけを別の製品へ転用できません。共通情報と明細、処置記録がつながれば、どの範囲を保留して誰へ引き継いだかも追えます。「該当なし」「未測定」「判定待ち」は意味を分け、空欄を合格として扱わないようにしましょう。
単位、記録する桁数、丸め方、判定記号は、適用する図面や検査手順に合わせて決めます。規格内に見せるために桁を落としたり、担当者ごとに丸め方を変えたりしません。表示値と記録値を変換する手順がある場合も、元の値と変換方法を追えるようにしてから、同じ基準で判定します。
不適合時は対象範囲と一次処置を同時に残す
規格外を見つけても、その場で原因まで分かるとは限りません。分かる測定結果と対象を記し、原因不明や測定不能はその状態のまま担当へ渡します。記録を完成させるまで保留や連絡を待つのではなく、所定の初動を進めながら、どの基準から外れ、どの範囲が未判明かを残してください。
- 発見時刻と、該当するロット・製番・サンプル番号を記入する。
- 不適合の項目、規格、最初の測定・観察結果を残す。
- 保留、隔離、再検、選別、工程停止、連絡など、実施した一次処置を記す。
- 再検した場合は、最初の測定値を消さず、理由、再検日時、結果、実施者と判断者を追記する。
- 詳細な判断を別記録で管理する場合は、その記録番号を本票に記す。
対象品と未判定品は所定の方法で識別・保留し、責任者へ速やかに伝えます。分かっている範囲だけを対象全体と決めず、前後の生産分への影響も判断する担当へ渡してください。原因が未確定でも測定値はそのまま残し、最終判断と保留解除の根拠、担当、日時を後から結び付けます。
同じ項目で規格外が続く場合は、測定日時、対象、測定器、工程条件をそろえて比べます。傾向が似ていても原因が同じとは限らないため、記録から調べる範囲を決めましょう。同じ不良が繰り返される原因の調べ方と再発防止の進め方へつなぐ際も、測定した事実と原因の仮説を分けて扱います。
検査内容に応じて追加項目を選ぶ
基本の12項目を見た後は、実際の検査1件をたどり、記録から抜ける条件がないかを調べます。下の順番で対象、結果、測定条件、影響範囲を比べると、追加する欄の用途を説明できます。試行で使わなかったことだけを理由に、指定された記録を任意欄へ変えないようにしてください。
- 品番だけで対象を特定できない場合は、ロット、製番、受入番号、作業指示番号のうち、後工程まで共通して使う番号を加える。
- 数値で測る場合は、規格、単位、実測値を明細に置く。外観検査では、基準書や見本の参照先と観察結果を置く。
- 測定器、治具、方法、時刻、担当者など、適用する検査手順で指定する条件を残す。
- 規格外時に前後の生産分まで調べる場合は、開始・終了時刻、検査数量、前後ロット、対象範囲を加える。
外観検査なら、対象箇所、基準書や見本の番号・版、観察条件、結果を記します。寸法検査では方法だけでなく、使用した測定器も識別できるようにします。たとえば同じ種類の器具が複数ある場合、名称だけではどれを使ったか分かりません。管理番号や確実に対応する機器記録を残し、後から履歴をたどれる形にしましょう。
記入・訂正・改訂のルールをそろえて運用する
品質担当者は、帳票名、版、適用開始日、正式な様式の保存先を決めます。そのうえで工程責任者が、記入する人、結果を読む人、合否や処置を判断する人を作業の流れへ組み込みます。兼任する場合も役割を分けて示し、記入済みの印だけで審査や保留解除が済んだと扱わないようにします。
- 紙の訂正は、誤記を読める状態で残し、訂正者と訂正日を記す方法を統一する。
- 電子入力は、元の値、修正者、日時、理由、変更内容を追える保存方法を決める。
- 空欄、該当なし、未測定の表記を統一する。
- 旧い空欄様式の使用を止め、記入場所には適用する版を置く。記入済み旧記録は保存する。
- 1〜2週間を目安に記入負担や追跡の不足を見直す。期間経過だけで検査や様式の妥当性を認めない。
様式を変えたら、理由、変更箇所、適用開始日を残し、作業場所に旧い空欄様式が混ざっていないかを調べます。過去の記入済み記録は新様式へ書き換えず、当時の版と履歴を保存してください。記録数に差があれば元の値を消す前に、事務と現場の数字が合わないときの照合手順と切り分け方で対象単位と転記経路を比べます。
記入から判断、保管までの担当を決める際は、少人数会社で業務手順を標準化する順番と着手基準も参照してください。様式の見た目だけを共通化せず、例外が起きたときの連絡先まで手順へ含めます。
不適合品の手直しが承認された場合は、再加工記録表の項目|手直し時間を改善へつなげるへ対象と処置の記録をつなげます。手直しを終えたことと、再検査や出荷の判断を終えたことは分けて残しましょう。
よくある質問
以下は、様式の共用、測定器の記録、訂正で迷いやすい点です。自社へ適用する図面、検査基準、取引条件の指定がある場合は、この記事の例よりその指定を優先します。判断できない点は品質の責任者へ渡し、現場だけで記録を省略しないようにしてください。
検査記録表は、全数検査と抜取検査で同じ様式を使えますか?
共通情報と処置欄を共用する方法はありますが、個体や測定箇所を追う明細と、抜取サンプルを追う明細は区別します。兼用する場合は検査区分、ロット、検査数、サンプル番号の意味が分かる構成にしてください。様式を共通にしたことを、抜取数や検査頻度を変えてよい根拠にはしません。
測定値が規格内でも、使用測定器の記録は残しますか?
規格内だった場合も、適用する手順に沿って使用測定器と方法を追えるように残します。器具が固定されていれば、上部の共通欄や機器管理記録へ参照する方法があります。ただし、交換や代替が起きたときに対応が切れるなら、実際に使った器具を明細へ記すなどの扱いを加えてください。
紙の検査記録表で書き間違えた場合、修正テープを使ってもよいですか?
訂正前の記載を残す運用では、元の文字を隠す修正テープを使いません。所定の訂正方法で元の内容を読めるようにし、訂正者、日時、理由、再審査の扱いを残します。単なる誤記の訂正と、再測定で別の結果を得たことも区別し、後者は元の測定値へ上書きしないようにします。
規格外が出た後に再測定して合格だった場合、最初の測定値は残すべきですか?
最初の測定値と日時、判定、再測定した理由、方法、結果を残します。再測定で規格内になったことだけでは、最初の値が誤りだったとも、対象全体を出荷できるとも言えません。権限のある担当者が元の異常と対象範囲を評価し、最終判断と品物の扱いを、処置欄や関連記録へ残します。
Excelで検査記録を管理するとき、ファイル名と保存場所はどう決めれば探しやすいですか?
空欄の正式な様式と、記入済みの検査記録は保存場所と扱いを分けます。記入済み記録は検査日、対象ロット、検査区分などからたどれる構成にし、記録番号を付ける方法があります。参照用コピーやバックアップを作る場合も正式な記録を明示し、訂正履歴、閲覧範囲、保存の決まりに沿って管理してください。
まとめ
まず、今ある記録で対象、適用基準、測定器、実測値、判定、処置を一続きに追えるか、実際の記入例を読んでみましょう。次に、足りない情報を共通欄、測定明細、異常処置の3層へ配置します。未測定や再検査の場面も試し、空欄が何を意味するかを読む担当者とそろえます。
運用後は、旧様式が使われた場面、対象や処置へたどれなかった場面から見直します。欄の数だけで使いやすさを決めず、記入する人と判断する人の両方が追えるかを比べてください。様式の見直しで測定の信頼性や合否基準まで決まるわけではないため、実際の判定は自社へ適用する方法・基準・取引条件に沿って行います。

